過敏性腸症候群
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過敏性腸症候群とは?
過敏性腸症候群(IBS)は、消化器に明確な異常が認められないにもかかわらず、腹痛や便通異常を繰り返す疾患です。
日本では人口の約10~20%が過敏性腸症候群とされ、特に20〜40代の女性に多く見られます。
発症の背景には、ストレスや不安などの心理的要因や、自律神経の乱れが関与して発症すると考えられています。
また、過敏性腸症候群は腸の過剰な収縮や感覚過敏が影響し、便通リズムが乱れるのが特徴です。男性の場合は下痢型が多く、女性は便秘型や混合型が多い傾向があります。
通常、検査では構造的な異常は見つからず、症状の経過や特徴から診断されます。
過敏性腸症候群の治療は、生活習慣の見直しやストレス管理を行うことが一般的です。場合によっては薬物療法も用いられます。

過敏性腸症候群の
症状は4つのタイプ
過敏性腸症候群は、症状別に次の4つのタイプがあります。
- 下痢型タイプ
- 便秘型タイプ
- 混合型タイプ
- 分類不能型タイプ、ガス型タイプ
①下痢型タイプ
過敏性腸症候群の下痢型は、突然強い便意を感じ、急いでトイレに駆け込むことが特徴です。
腹痛を伴うことが多く、泥状や水のような便が排出される傾向があります。
1日に何度も下痢を繰り返すため、外出時に不安を感じることがあり、心理的ストレスがさらに症状を悪化させることも少なくありません。
特に若年層の男性に多く見られるとされています。
②便秘型タイプ
過敏性腸症候群の便秘型は、腸がけいれんすることで便の排出が滞ってしまうタイプです。
腹痛やお腹の張りを感じることが多く、便が硬く、コロコロとした状態で出るのが特徴です。
強くいきまないと排便できず、出た後もすっきりしない残便感があります。数日間排便がないことも珍しくなく、特に若い女性に多く見られます。
③混合型タイプ
過敏性腸症候群の混合型は、激しい腹痛とともに便秘と下痢を交互に繰り返すタイプです。
腸の動きが不安定で、排便が滞る時期と急に下痢になる時期が交互に訪れます。ストレスが加わると症状が悪化しやすいです。
男女問わず発症しやすいタイプで、特に若年層に多い傾向があります。
④分類不能型タイプ、
ガス型タイプ
過敏性腸症候群の分類不能型は、下痢型・便秘型・混合型のいずれにも当てはまらない症状を示すタイプです。
特に、おならが頻繁に出たりお腹の張りがある場合は、ガス型タイプが疑われます。腸内でガスが過剰に発生しやすいタイプで、膨満感や腹鳴が続くことがあります。
においや音が気になり、特に人前では強いストレスを感じやすいです。ガス型タイプが悪化すると、不意におならが漏れることもあり精神的な負担が大きくなることがあります。
過敏性腸症候群の
チェックリストと
重症度チェック
次の項目に複数当てはまる人は、過敏性腸症候群の可能性があります。
- 急に便意を感じる
- 激しい下痢症状がある
- 1日に何度もトイレに駆け込む
- 便が水っぽい
- 腹痛や腹部の張り感がある
- 便秘を繰り返し、便が出にくい
- 便が硬く、
コロコロとした状態で出る - 便秘と下痢を繰り返している
- おならが漏れることがある
- ストレスを感じると症状が悪化する
- 数週間~数ヶ月、お腹の不調や痛みがある
便秘や下痢が数週間から数ヶ月続いている、排便後に痛みが一時的に軽減する、便の形が不規則、残便感があるなどの症状が該当します。
また、ストレスを感じると症状が悪化するケースも多く、日常生活に支障をきたすこともあります。
特に、便に血便が混じっている場合や睡眠中にもお腹の痛みで目が覚める場合などは、重症の可能性があるため早めに医療機関を受診することが大切です。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因は明らかになっていませんが、主にストレスや腸の機能異常が関与していると考えられています。
ストレスを受けて神経が緊張すると、神経伝達物質のバランスが崩れ、腸の動きが過剰に活発になったり、逆に鈍くなったりして下痢・便秘といった便通異常を引き起こします。
特に、満員電車や大事な会議前、試験前など、緊張する場面で腹痛や下痢が発生しやすい人は少なくありません。
また、過去に細菌やウイルス感染による腸炎を経験した人が、その後、腸の過敏性を持続させる「感染後過敏性腸症候群」を発症することもあります。
そのほか、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れることで腸内環境が悪化し、炎症が慢性化して症状が引き起こされることもあります。
過敏性腸症候群の
診断と検査方法
過敏性腸症候群の診断は、慢性的な腹痛や排便の異常が続いているかを基準に行われます。
一般的に、6ヶ月以上前から症状があり、直近3ヶ月間で週1回以上の腹痛が発生し、以下の2つ以上が当てはまる場合に診断されます。
- 排便によって症状が緩和される
- 排便の回数に変化が見られる
- 便の形状が変わる

また、過敏性腸症候群の診断には、大腸がんや炎症性腸疾患などの器質的疾患を除外することも重要です。
そのため、必要に応じて血液検査や尿検査、大腸内視鏡検査、腹部CT検査などが行われることも多いです。
そのほか、症状の原因がストレスや心理的要因と関連している可能性があるため、性格テストを行う場合もあります。
過敏性腸症候群に
なりやすい人とは?
気にしすぎる人は注意
過敏性腸症候群は、繊細な性格やストレスを抱えやすい人に多く見られます。
特に、自分の感情を表現するのが苦手で、無意識のうちに気にしすぎてしまう人は発症リスクが高いです。ストレスを自覚しないまま蓄積すると、脳がストレスホルモンを分泌し続け、腸の不調として現れることがあります。
そのため、気にしすぎる人で、気分が沈みがちだったり慢性的な体調不良や疲れを感じたりする人は注意が必要です。
過敏性腸症候群の
治療法
過敏性腸症候群の治療方法は、主に次の4つです。
- 生活習慣の改善
- 食事療法
- 薬物療法
- 精神療法
治療法①生活習慣の改善
過敏性腸症候群の改善には、まずは生活習慣を見直すことが重要です。
規則正しい生活を心がけることで、腸のリズムを整え、症状の軽減につながります。例えば、十分な睡眠を確保し、適度な運動を取り入れることが有効です。そのほか、ストレスは症状を悪化させる要因となるため、リラックスする時間を確保し、ストレスを溜め込まない工夫も大切です。
また、刺激の強い食品や過度な飲酒は腸を刺激するため、控えることが推奨されます。
治療法②食事療法
過敏性腸症候群の症状を和らげるためには、食生活の見直しも欠かせません。
1日3食を規則正しく摂り、栄養バランスの取れた食事を心がけることが大切です。暴飲暴食や寝る前の食事は避け、腸に負担をかける油っこい料理、アルコールや炭酸飲料、コーヒーなど刺激の強い食品を少し控えることも必要となります。
また、便秘型の場合は食物繊維を積極的に摂取し、下痢型の場合は消化の良い食品を中心にすることで腸の負担を軽減できます。
水分補給も重要で、特に便秘型の人は十分な水分を摂るのが大切です。
治療法③薬物療法
過敏性腸症候群の治療では、症状に応じて薬物療法を行うことも大切です。
例えば、腸の運動を正常に整える薬、腸内環境を改善する整腸剤(プロバイオティクス)、腹痛を和らげる鎮痛薬、下痢を抑える薬などが処方されます。そのほか、ストレスが関与する場合には抗不安薬や自律神経を調整する薬、漢方薬が使用されることもあります。
また、便の状態に応じた処方が行われることも多いです。
便の水分量を調整する薬は、下痢型・便秘型・混合型のいずれにも効果が期待でき、特に下痢型にはセロトニン受容体拮抗薬、便秘型には腸の動きを促進する薬が処方されます。
薬の種類や量は個々の症状に合わせて調整するため、医師と相談しながら適切に使用することが大切です。
治療法④精神療法
過敏性腸症候群は精神療法を取り入れることで症状の改善が期待できます。ストレスが関与して症状を起こしていることが多いためです。
薬物療法だけでは十分に効果が得られない場合、ストレスマネジメントを行うほか、不安や緊張を和らげるリラクゼーション療法を用いることがあります。
また、完璧を求めずに適度な目標を持つ考え方や、ウォーキングなどの軽い運動を取り入れることも、心身のバランスを整えるのに役立ちます。
十分な睡眠を確保することも自律神経を整え、症状を緩和させるために重要です。
過敏性腸症候群の人に
おすすめの食べ物
「低FODMAP」
近年、過敏性腸症候群の症状と食事の関係が注目されており、特に「FODMAP(フォドマップ)」とよばれる糖質の摂取が症状の悪化に関与していることがわかってきました。
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質の総称で、オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオールを指します。これらを多く含む「高FODMAP食品」は、腹痛や便通異常を引き起こしやすく、過敏性腸症候群の症状を悪化させる可能性が高いです。高FODMAP食品の摂取を抑え、「低FODMAP食」を摂り入れることで、症状の改善が期待できます。まずは食事日記をつけ、自身の症状との関連を確認しながら、無理のない範囲で低FODMAP食を取り入れることが大切です。
以下は、低FODMAP食と高FODMAP食品の例なので、ぜひ参考にしてください。
低FODMAP食 | 高FODMAP食 | |
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穀類 |
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野菜・豆・きのこ類 |
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肉・魚類 |
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果物 |
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乳製品 |
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その他 |
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