社交不安障害
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社交不安障害
(SAD)とは?
社交不安障害(SAD)は、他人の視線を強く意識し不安や恐怖を感じる病気で、不安障害の中に分類されます。
人前で注目を浴びる状況などで、極度の緊張や動悸、赤面、発汗といった症状が現れます。そのほか、「失敗してしまったらどうしよう・・・」という過剰な不安や恐怖を感じたり、緊張する場面を避けるといった回避行動も社交不安障害の症状のひとつです。
また、社交不安障害は学童期や思春期に発症することも多く、治療を受けずに放置すると、進学・就職・結婚などの大切なライフイベントにおいて、行動に制限をかけてしまう可能性があります。
性格の問題と決めつけるのではなく、社交不安障害は治療によって良くなることが可能な疾患です。

社交不安障害の症状
社交不安障害は、人前で注目を浴びる状況で強い不安や恐怖を感じる疾患です。
以下のような症状が6ヶ月以上続く場合、社交不安障害の疑いがあります。
- 他人の視線や評価を過度に恐れる
- 他人から否定的に思われるのではないかと不安になる
- 対人関係に強いストレスを感じる
- 人と話すこと自体が苦痛に感じる
- 失敗を極度に恐れ、会話などを避けてしまう
- 人前で動悸や息苦しさを感じる
- 手足の震え、声の震えがある
- 過剰に汗をかく
- 顔が赤くなる
- 口の渇き、吐き気、めまいがある
- 回避行動で仕事や学校を欠席する
社交不安障害は単なる緊張とは異なり、過度な恐怖が身体的な症状や回避行動を引き起こし、日常生活に支障を及ぼすことがあります。
生活への影響が大きくなる前に、適切な治療を受けることが大切です。
社交不安障害が出やすいシーン
以下のようなシーンで、社交不安障害の症状が出やすい傾向があります。
- 人前での会話や発表(自己紹介やプレゼンなど)
- 職場や学校での
ちょっとした会話 - レストランやカフェでの食事
- 他人が見ている中での署名や書類記入
- 職場や知らない相手との電話
- 恋人とのデートや美容院
これらの場面では、他人に評価されることへの恐怖が強まり、緊張や回避行動につながりやすいです。
症状が繰り返されると、ますます苦手意識が強くなり症状の悪化を招く恐れがあります。
社交不安障害にともなう
精神疾患
社交不安障害を抱える人は、強い不安や恐怖感が日常的に続くことで、他の精神疾患を併発しやすい傾向があります。
特に以下の疾患は、社交不安障害と合併して起こりやすいです。
- うつ病
- 双極性障害
- 全般性不安障害
- パニック障害
- 強迫性障害(OCD)
- 回避性パーソナリティ障害
- アルコール依存症
社交不安障害(社会不安障害)の方は、うつ病や気分変調症などの気分障害、またパニック障害や全般性不安障害、強迫性障害などの不安障害を、健康な人と比べて3倍程度発症しやすいというデータもあります。
また、「好かれていると確信がもてなければ、人と関係を持ちたがらない」「批判や非難、拒絶される事への恐怖」が典型的な症状である回避性パーソナリティ障害は、人前で極度に緊張しやすくなり、社交不安障害を引き起こしやすいとされています。
そのほか、強い不安や緊張の逃避先としてお酒を飲むようになった場合、アルコール依存症を合併しやすいです。
社交不安障害が重症化すると、これらの疾患を併発するリスクが高まります。
社交不安障害の原因
社交不安障害は遺伝的要因、脳神経の働き、育成環境などが複雑に関与していると考えられています。しかし、発症メカニズムは明確にはなっていません。
一部の幼児は、新しい環境や人と出会ったときに、泣いたり逃げたりする「行動抑制」の気質を持っています。行動抑制の気質は遺伝的影響が大きいとされるほか、社交不安障害にもつながるという説もあります。
また、近年では「セロトニン神経系」や「ドーパミン神経系」に異常があると、社交不安障害を起こしやすいという研究もあり、脳神経系も要因のひとつとも言われています。そのほか、幼少期に虐待(身体的・精神的・性的)を受けた場合、社交不安障害を発症するリスクが高まることがわかっています。
両親が社交不安障害を抱えている場合、子どもがその行動を学習し発症しやすくなる可能性も示唆されています。
社交不安障害の診断
社交不安障害は、症状が6ヶ月以上持続していることが診断基準となります。
例えば、対人場面で強い恐怖や不安を感じ、日常生活に支障が出ているかどうかが重要視されます。また、社交不安障害の診断には、はじめに身体的疾患を除外し、その後、部分的に共通する症状のある疾患を鑑別することが重要です。
社交不安障害と部分的に共通する症状を持つ疾患には以下のものがあります。
- バセドウ病・不整脈:動悸など
- 呼吸器疾患:息苦しさ
- 神経疾患:手のしびれなど
- 広場恐怖症・パニック障害・心的外傷後ストレス障害(PTSD)・
うつ病:強い不安感 - 自閉症スペクトラム:他人との関わりが苦手
患者さんの症状を把握し、これらの疾患に当てはまらないか慎重に鑑別し、社交不安障害と診断されます。
病院に行くべき?
社交不安障害のセルフチェック
以下のような状態が続く場合、社交不安障害の可能性があるため、
早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。
- 人前での緊張が異常に強く、声や手が震える
- 人との会話や視線を合わせるのが怖い
- お腹が鳴る音が人に聞かれているのではないかと強く不安を感じる
- 人から自分がどう思われているかが常に気になる
- 人前で食事したり文字を書いたりするのが恥ずかしい
- 人前で電話するのが恥ずかしい
- 体臭や汗など体の変化を過度に意識してしまう
- 他人の仕草や会話が自分への批判に感じる
- 他人から悪口を言われている気がする
社交不安障害の
重症度の診断基準は?
社交不安障害の重症度は、評価尺度を用いて検査します。
社交不安尺度は「LSAS」とよばれ、例えば「人前で電話をかける」「少人数のグループ活動に参加する」などの問いに対し、どのくらい恐怖感や不安感を覚えるかで回答し、評価します。
参照:社交不安症の評価スケール 日本語版
ただし、評価尺度のみで重症度は判断できません。あくまでもひとつの参考として他の要素も含めて総合的に診断を行います。
社交不安障害を
早期発見するためのポイント
社交不安障害は決して珍しい病気ではなく、発症の多くは8〜15歳に集中しています。
特に、授業中の発表や学校行事で極度の緊張や動悸、手の震え、息苦しさが現れ、これらを避けるために学校を休みがちになることが初期のサインとなります。教師やスクールカウンセラーに相談することで発見されるケースも少なくありません。
また、社会人になって社交不安障害が見つかることもあり、朝礼やプレゼンの場面で強い不安を感じ、産業医や人事担当者の指摘によって診断されることもあります。家庭では目立った症状が現れにくいため、家族が気づきにくいのが特徴です。症状が疑われたら、早めに専門の医療機関を受診することが重要です。

社交不安障害の治療法
社交不安障害の治療法は、主に次の2種類です。
- 薬物療法
- 精神療法、心理療法
治療法①薬物療法
社交不安障害の薬物療法に用いられる薬には以下があります。
- 抗不安薬:不安を抑える
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):不安を軽減する
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):気分の落ち込みを改善する
- β遮断薬:動悸を軽減する
- 制吐剤:吐き気を軽減する
社交不安障害の薬物療法には、すぐに効果を実感しやすい薬と長期間効果を持続させる薬の2種類があります。
抗不安薬やβ遮断薬はすぐに効果を実感しやすい薬の一種で、会議前など特定の場面での不安を抑えるために用いられます。
一方、SSRIやSNRIは長期的に脳内の神経伝達物質のバランスを整え、不安をコントロールしやすくする薬です。
このように、薬物療法では状況に応じて適切な薬を使い分けることで、不安を和らげながら症状を改善していきます。
治療法②精神療法、心理療法
社交不安障害の治療には、精神療法や心理療法も行われます。
薬で症状を和らげつつ、行動療法や暴露療法を用いて実際に不安が起こる状況に少しずつ直面し、恐怖心を減らしていきます。特に心理療法では、自分に対する否定的な思い込みを改善する「認知行動療法」を用いるのが一般的です。
例えば、「自分は他者より劣っている」といったネガティブな自己評価を見直し、より現実的な思考へと修正していきます。
こうした誤った思考は無意識に習慣化していることも多く、自力での修正は難しいため、専門家のサポートを受けながら段階的にトレーニングを重ねることが重要です。
社交不安障害の方に
向いている仕事とは?
社交不安障害の方にとって、人前で話すことが多い職業や初対面の人との接触が頻繁な仕事はストレスの原因になりやすいです。そのため、営業など人前でプレゼンする仕事のほか、受付など初対面の人とやりとりが発生する仕事を避けることが特に重要です。
また、社交不安障害の方には、人との関わりが少なく自分のペースで作業ができる仕事が向いているとされています。
具体的に、社交不安障害の方に向いている仕事には以下が挙げられます。
- システムエンジニア(SE)
- プログラマー
- 清掃員、倉庫作業員
- トラックドライバー
- 新聞配達員
- 電気、ガスの検針員
- Webライター
- Webデザイナー
特に、システムエンジニアやプログラマー、Webライターなどは、在宅勤務やテレワークができる仕事なので、人間関係のストレスを抑えて働きやすいです。
社交不安障害の予防法
社交不安障害を予防するためには、症状が改善した後の行動が重要です。
治療がある程度進んだ段階で、少しずつ外出や人との交流を増やし、社会的なスキルやコミュニケーション力を高めていくことが有効です。
もともと人前で緊張を感じやすい性格であっても、継続して場数を踏むことで過度な不安を抑え、社会適応力を身につけることができます。
また、一度失敗した経験がトラウマとなって社会生活に支障をきたすこともあるため、不安を感じる状況から過度に逃げずに、徐々に慣れることが効果的です。緊張や不安は誰もが抱える自然な反応なので、あまり意識しすぎず、失敗しても前向きに捉える姿勢が予防につながります。